業務内容

未払い残業代解消対策

民法改正にともない、残業代等の未払い賃金を請求できる期限(賃金請求権の消滅時効)が2年から当面3年へと延長になりました。
2020年4月1日以降に支給される賃金から適用になっています。(厳密には月末締・翌月払いの企業であれば3月勤怠分より)
IPOやM&A時の労務監査・労務DDにおける最重要ポイントであるのはもちろん、是正指導の結果命じられる「遡及払い」のダメージは図り知れませんので、陥り易い例を挙げ、既にこのような問題を抱えている場合には、対策を講じていきます。

1ずさんな労働時間管理、カウント労働時間の不適正処理

業績優先で社内管理体制の構築が後回しになり、労働時間管理がまったく行われていない企業がしばしば見受けられます。これにあてはまる場合、労働時間の正確な把握・正確な給与計算がなされるよう改善が求められます。 また、労働時間のカウントについて、企業独自の運用をしていた結果、未払い残業代が発生してしまった例も数多くあります。

誤り易い例
・残業時間の端数処理について、15分単位で集計を行う企業独自ルールのもと、15分単位で超えた端数労働時間を「日々」切り捨てる。
1か月を分単位で集計したものの結果についての端数処理は法違反とはなりませんが、この日々の切り捨ては、典型的な誤りといえます。

・タイムカード等打刻方法について、企業独自ルールのもと、「残業時間は1か月45時間以上を超えて打刻してはならない」「休日出勤日について打刻してはならない」「一定時間以上の残業時間数は、カットして集計する」といった運用を行う。

このようなケースは時間外労働の不作為行為に対する企業姿勢が問われます。従業員から行政に申告されることも現実に発生し得るため、使用者による指揮命令下における必要不可欠な時間は全て労働時間に該当するという認識を持ち、管理監督者層をはじめとする従業員教育を行い、適正な労働時間を把握できる企業風土を形成していく必要があります。

2割増賃金単価計算等の過誤

以下ケース1~3のように、給与計算担当者の法令上の詳細な知識欠如が要因となり、所定労働時間数の誤り、割増賃金単価への手当不算入、除外できる賃金の名称のみにとらわれてしまい、過誤計算が行われてしまう。といったケースが多く見受けられます。手当を新設した場合や、新たに既存手当の支給対象者となった従業員に対しての検証を怠ると、在職者のみならず、退職者からも思わぬ未払い残業代の遡及払いを請求されるリスクがあります。

ケース1

月の所定労働時間数を正しく把握していない。

(365日-年間カレンダー等で企業ごとに定めた休日数)×1日の所定労働時間÷12か月
月給25万・残業10時間:本来160時間で計算すべきところ、給与計算担当者のミスで170時間として計算し続けてしまった。


〇 正しい計算 250,000円÷160時間×1.25×10時間=19,532円
× 誤った計算 250,000円÷170時間×1.25×10時間=18,383円  1,149円/月 の未払い残業

単月・従業員1名分であればインパクトは感じられませんが、月給25万の従業員100名が毎月10時間しており、かつ3年間計算を誤り続けた場合、遡及払い額は  1,149円×100名×3年(36か月)=4,136,400円にのぼります。

ケース2

在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外している。
コロナ禍を機に在宅勤務制度を導入し、あわせて在宅勤務手当5,000円/月を光熱費の補填を目的として支給することとした。
自宅光熱費の補填なのだから割増賃金の算定基礎から除外しても良いだろうと判断し、残業代を計算し続けた。

月給25万・在宅勤務手当5千円・残業10時間・月平均所定労働時間は160時間とする

〇正しい計算(250,000円+5,000円)÷160時間×1.25×10時間=19,922円
×誤った計算 250,000円÷160時間×1.25×10時間=19,532円  390円/月 の未払い残業

ケース1同様、単月・従業員1名分であればインパクトは感じられませんが、月給25万・在宅勤務手当5千円の従業員100名が毎月10時間残業しており、かつ3年間在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外するという誤りを続けた場合、遡及払い額は390円×100名×3年(36か月)=1,404,000円にのぼります。

ケース3

新設手当の支給実態を検証せず、割増賃金の算定基礎から除外している。
手当を新設し、住宅手当:一律20,000円/月、家族手当:扶養家族数に応じて支給、通勤手当:距離にかかわらず一定額5,000円/月を支給することとした。従業員Aには、扶養家族数に応じた10,000円/月の家族手当を支給した。
給与計算担当者は、全て労基法上に規定されている除外賃金であると判断し、残業代を計算し続けた。

月給25万・住宅手当2万円・家族手当1万円・通勤手当5千円 残業10時間・月平均所定労働時間は160時間とする

〇正しい計算(250,000円+20,000円+5,000円)÷160時間×1.25×10時間=21,485円
×誤った計算 250,000円÷160時間×1.25×10時間=19,532円 1,953円/月の未払い残業
このケースでは新設手当の内、家族手当は扶養家族数に応じてという基準により支給されているので算定基礎からの除外が可能です。ただし、住宅手当と通勤手当は労基法第37条に規定の除外賃金とされているものの、実態として一律支給されている為、いわば第二基本給化していますので割増賃金の算定基礎から除外することはできません。
ケース1.2 同様に遡及払い額を算出してみると、1,953円×100名×3年(36か月)=7,030,800円にのぼります。

3定額時間外手当制度の運用が不適正

特に近年のベンチャー企業において多く採用されている制度です。
・一定時間数を設定の上定額支給し、当該一定時間数を超えた場合に追加支給する
・一定時間数の相当額を支給し、当該額を超えた場合に追加支給する
と運用方法は様々かと思われますが、運用について給与規程等により労働者が明確に理解できるようにしておかなければ、有効性を示すことができないため、定額時間外手当と思って支給していたもの自体が否定されてしまいます。

以下に挙げる要素を満たしているか、再確認しておく必要があります。

(1)定額時間外部分の賃金額とそれ以外の賃金額が明確に区分できているか
(2)定額時間外部分が何時間分の時間外労働数にあたるかを、給与規程、労働条件通知書、雇用契約書といったものに明示しているか
(3)定額時間外部分に相当する時間(または額)を超えた場合は差額を追加支給する旨を、給与規程、労働条件通知書、雇用契約書といったものに明示しているか

加えて、時間数の確認を放置していないか、定額時間外部分が実際の割増基礎単価から算出した割増賃金以上になっているか、賃金台帳に時間外労働時間数を記載しているか、といった確認も有効性を示すためには必要な対応となります。

最高裁:テックジャパン事件において「雇用契約上明確とされていること、給与明細書上で何時間分の定額時間外手当としているのか明示されていること、超過分については追加して支給する旨明確に示されていること」といった主旨の裁判官の補足意見が付加されていますので、明確な区分および帳票への明示の徹底について実務上参考にすべきといえます。

4歩合給に対する割増賃金の計算誤り

・営業系職種において、例えば「インセンティブ」といった名称の歩合給を給与で支給している企業で、未払い残業代が発生するケースがあります。
例えば賃金計算期間における所定労働時間が160時間、時間外労働時間が40時間、歩合給が1万5千円の場合、当該 歩合給にかかる割増賃金の計算方法は以下の通りとなります。

(15,000円÷200時間)×0.25×40時間=750円

歩合給1万5千円を得るために、所定労働時間である160時間だけではなく、時間外労働時間の40時間も加えた200時間を費やしたと考えます。この例であれば200時間ですが、歩合給は同額であったとしても、それに費やした総労働時間は従業員毎に異なるはずですので、計算には細心の注意が必要です。

労働基準法施行規則19条1項6号
「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間において出来高制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額」・・・・

5最低賃金をクリアしていない

・毎年10月に地域別最低賃金が改定されていますが、これをキャッチアップしていない場合に該当します。
定額時間外手当制度を採用している場合は基本給、その他諸手当(除外可とされている賃金を除く)の合計額を月平均所定労働時間数で除した金額が、最低賃金以上の額となっているかの検証を行う必要があります。

6管理監督者の適用に誤り

企業の状況により判断が必要となります。課長以上、部長以上といった役職名で判断するのではなく、一定の部署やグループ単位での権限を越える範囲の指揮、管理、監督といった参画する立場か否かでの判断が必要です。管理監督者性が否定される場合、時間外手当の再計算により生じる遡及額が膨大となることに加え、訴訟に発展した場合には、IPO審査においても紛争の決着まで審査がストップしたり、上場承認が見送られることもあります。
退職者からも訴訟を提起される可能性もあり得ますので、適用にあたっては十分に検討しなければなりません。

ポイント

・経営者と一体的な立場である、すなわち経営者から管理監督、指揮命令にかかる一定の権限を委ねられているか
 ⇒「管理職」と呼ばれる社員を機械的に管理監督者として扱っていないか
・出退勤に厳密な定めがなく、自らの裁量に任されているか
 ⇒例えば、遅刻した日について8時間に満たない労働時間分の控除を行っていないか
・一般社員と比較し地位にふさわしい待遇(給与、賞与)がなされているか
 ⇒賃金が逆転していないか、一般社員へ残業代を支給することにより容易に逆転現象が生じることはないか

給与計算の実務上見受けられる計算ミス

・管理監督者に対して深夜勤務手当を計算していない労働基準法第41条では、深夜業の規定について適用を除外していませんので注意が必要です。
・役職手当等を割増賃金基礎に含めていない新しく管理監督者に登用された社員について、役職手当等を新たに支給する際に起こりがちなケースです。

参考条文 労働基準法第41条
(労働時間等に関する規定の適用除外)
第41条 この章、第6章および第6章で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者には適用しない。
一 別表第一第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの

参考行政通達 昭和63年3月14日 基発第150号
(1)原則
労働基準法に規定する労働時間、休憩、休日等の労働条件は最低基準を定めたものであるから、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではないこと。
(2)適用除外の趣旨
これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として労働基準法第41条による適用の除外が認められる趣旨であること。従って、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。
(3)実態に基づく判断
一般に、企業においては、職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」という。)と、経験、能力等に基づく格付(以下「資格」という。)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。
(4)待遇に関する留意
管理監督者であるかの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇装置が講じられているからといって、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。
(5)スタッフ職の取扱い
法制定当時には、あまり見られなかったいわゆるスタッフ職が、本社の企画、調査等の部門に多く配置されており、これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては、管理監督者と同様に取扱い、法の規制外においても、これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ、かつ、法が監督者のほかに、管理者も含めていることに着目して、一定の範囲の者については、労働基準法第41条第2号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること。

7年俸制適用者に対する割増賃金の計算誤り

年俸制には時間外手当・休日出勤手当を支払う必要がないという誤った解釈をしているケースが該当します。
・管理監督者については、時間外手当・休日出勤手当の支払い義務はありませんが、同列に扱ってはならないことに注意が必要です。
・年俸を単に12分割ではなく、賞与支払期に合わせて14分割の支給としている場合には、割増基礎単価の計算について注意が必要です。具体的には、年俸制により確定した賃金額を12分割した上で、割増賃金計算を行います。

例:確定年俸560万円 14分割 毎月40万円(固定残業代なし)、夏期賞与40万円、冬期賞与40万円
労働基準法第41条2号:管理監督者に該当しない社員・月平均所定労働時間は160時間とする
月40時間残業のとき
〇正しい計算(5,600,000円÷12)÷160時間×1.25×40時間=145,834円
×誤った計算(5,600,000円÷14)÷160時間×1.25×40時間=125,000円  20,834円/月の未払い残業
なお、このケースで残業代を支払う必要がないと判断しており、常態として毎月40時間の残業を行っていた社員に対して3年間(36か月)一切の残業代を支給していなかった場合、遡及払い額はおよそ750,000円にのぼります。

参考行政通達 平成12年3月8日 基収第78号
1.割増賃金の算定について(労働基準法第37条)
割増賃金の基礎となる賃金に算入しない賃金の一つである「賞与」とは支給額が予め確定されていないものをいい、支給額が確定しているものは「賞与」とみなされない(昭和22・9・2発基17号)としているので、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計して予め年俸額が確定している場合の賞与部分は上記「賞与」に該当しない。
したがって、賞与部分を含めて当該確定した年俸額を算定の基礎として割増賃金を支払う必要がある。
よって、事案の場合、決定された年俸額の12分の1を月における所定労働時間数(月によって異なる場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数)で除した金額を基礎額とした割増賃金の支払いを要し、就業規則で定めた計算方法による支払額では不足するときは、労働基準法第37条違反として取り扱うこととする。

新労働時間の適正把握ガイドライン

使用者の「労働時間把握・算定義務」とは
労基法は、労働時間、休日、休暇などについて労働者保護のための規制をしていますが、その遵守義務は主として使用者に課せられています。使用者は、労働者に今何時間の労働をさせているのか、法律上の許容時間はあと何時間であるのかを知っておく必要がありますので、労働時間把握・算定義務は極めて重大な役割であるといえます。
平成29年1月20日「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」において、「労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。」としています。すなわち、労基法という公法上の義務(使用者の国に対する義務)といえます。

新労働時間の適正把握ガイドラインに基づく行政指導とは
「現状、労働者の自己申告制の不適正な運用にともない、労働基準法に違反する過重な長時間労働や割増賃金の未払いといった労働時間の把握が曖昧となり、その結果として割増賃金の未払い問題も生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである」として次のような行政指導を行っています。
①始業・終業時刻の確認および記録
・労働者の労働日ごとに始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
②始業・終業時刻の確認および記録の原則的な方法
・使用者が自ら現認することにより確認し、記録すること
例:管理監督者が朝一番に出社し、最初に出勤した一般労働者から順次出勤時刻を確認し記録、一番最後に退社した一般労働者を確認し退社時刻を記録後に、管理監督者が退社する。
③自己申告制により始業・終業時刻の確認および記録を行う場合の措置
・労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うよう十分な説明を行うこと
・把握して労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間を補正すること
例:入退場記録やパソコンの使用記録など、事業場内にいた時間のデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間との間に著しい乖離が生じている場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をする。
・自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、適正に行われているかについて確認すること。休憩や自主的な研修、教育訓練であるため労働時間ではないと報告されていても、実際に使用の指示により業務に従事している等使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる場合には、労働時間として扱わなければならないこと。
自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものであるため、労働者が自己申告できる時間外労働時間に上限を設け、上限を超える申告を認めない等の適正な申告を阻害する措置を講じないこと。
・時間外労働時間の削減のための社内通達や、時間外労働の定額払等労働時間にかかる事業場の措置が、労働者の適正な申告を阻害する要因になっていることが確認された場合には、改善のための措置を講ずること。
・36協定上により延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において慣習的に行われていないかについても確認すること。
④賃金台帳の適正な調製
・労働基準法第108条および同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。
⑤労働時間の記録に関する書類の保存
・使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存しなければならないこと
⑥労働時間を管理する者の職務
・事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握およびその解消を図ること
⑦労働時間等設定改善委員会等の活用
・使用者は、事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点およびその解消策等の検討を行うこと

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